心疾患やがんなど、ストレスが様々な病気を引き起こす要因になることは広く知られています。
特に最近では、命に関わる病気を引き起こすまでに蓄積されたストレスのことを、「キラーストレス」と呼び、通常と区別することがあります。
そこで、キラーストレスとはそもそも何なのか、身体に対し具体的にどのような影響を及ぼすのか、キラーストレスへの対処法は何か、解説したいと思います。
ただのストレスじゃない!?キラーの意味
ストレスが心臓に大きな負担をかける
ストレスは、脳を通じて自律神経を刺激したり、内分泌系(いわゆるストレスホルモン)に影響を与えたりします。
ストレスが高くなると、自律神経が心臓周辺の筋肉の血管を収縮させる一方で、ストレスホルモンが心拍数を増やすように働くため、心臓に大きな負荷がかかります。
キラーストレスが死に至る病気を引き起こす
ストレスによって心臓の負担がかかると心不全のリスクが大いに高まります。
それだけでなく、重いストレスは免疫系に影響を与え、通常なら免疫で排除されるはずのがん細胞が活性化してがんが発病したり、やはり通常なら免疫で排除されて何の問題も無い体内細菌が、動脈硬化を引き起こし、血管の壁を破壊して、脳卒中などの突然死をもたらしたります。
このように、死に至る病を引き起こすまでに蓄積されたストレスが、キラーストレスなのです。
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キラーストレス進化の過程
もちろん、ストレスは日常生活には伴うものなので、全てのストレスを恐れる必要はありません。ただ、一つ一つは小さなストレスでも、蓄積されることで、キラーストレスに発達することはありえます。
人生で起こる様々な出来事を数値化してチェック
そういった蓄積されるストレスを判断する一つのものさしとして、ライフイベントストレスチェックというやり方があります。
結婚や就職など、人生の節目節目のライフイベントがどの程度のストレスを与えるかを数字化したものです。
過去一年内に発生したライフイベントでのストレスを合計し、一定の数字を超えると病気を引き起こすほどストレスが溜まっている可能性があると考えられるそうです。
ライフイベントストレスランキング
- 1位 配偶者の死
- 2位 会社の倒産
- 3位 親族の死
ポジティブなこともストレスになる
重要なのは、誰かの死や失業などのネガティブなことだけではなく、程度は小さいものの、長期休暇やレクリエーション、収入の増加など、ポジティブなこともストレス要因になりうるということです。
やはり、キラーストレスを生み出すのは、大小さまざまなストレスの蓄積といえるでしょう。
キラーストレスと人間の外的環境の変化
さて、このようなキラーストレスが登場する背景には、歴史的な意味での、人間の外的環境の変化が指摘されることがあります。
もともとストレスは、天敵に襲われてしまうような極限状況で身体を効果的に動かすために備わった機能でした。
そこでは、極限状況が終わればストレスが緩和され、いつもどおりの身体の働きに戻るわけです。
ところが現代は、天敵に襲われるような極端なストレスがなくなった代わりに、ストレス要因が無くならずに残り続け、ストレスが蓄積される環境にあります。
それがキラーストレスを生み出しやすくしているのです。
テレビも注目!キラーストレス
このような深刻な結果をもたらすキラーストレスについては、テレビ番組でも紹介されました。2016年の6月18日・19日と二夜連続で放映された番組、NHKスペシャル『シリーズ キラーストレス』(全2回)です。
番組では、仕事でストレスを感じる人が80%以上もいるという現状から、ストレスが人の命を奪う「キラーストレス」となる可能性について指摘されました。
第1回ではキラーストレスの具体的な危険性が紹介されました
第1回では、主にキラーストレスが発生し、命を奪うかもしれない病に至るまでのメカニズムについて、医化学上の研究の最先端の知見から、解説されています。
具体的には、過度なストレスによって様々なホルモンが過剰分泌され、それらの作用によって、脳細胞や血管をはじめ、臓器の機能が損なわれ、破壊されていく恐ろしいプロセスが紹介されています。
また、がんの進行にもストレスが関係しているという研究結果も紹介され、漠然と身体によくないと考えられているストレスが、具体的にどのような影響を与えるのかが、理解できる内容となっています。
第2回ではキラーストレスへの対処法が紹介されました
第2回では、やはり最新の医化学上の研究成果に基づき、おそるべき「キラーストレス」から身を守る方法について紹介されています。それらのストレス対策は、学校や大企業など、世界の様々なシーンで活用されており、その一端は、個人でも実施できそうな内容であり、とても参考になります。
番組内容は「キラーストレス 心と体をどう守るか」にまとめられています
なお、この番組は『キラーストレス 心と体をどう守るか (NHK出版新書)』という書籍にまとめられています。ストレスがキラーストレスに変わるメカニズム、ストレスから死に至る病にかかるプロセス、キラーストレスへの対処法などがまとめられています。番組を見逃した方は、こちらの書籍も手に取ってみてはいかがでしょうか?
【ストレス対策1】宇宙飛行士も活用!コーピングとは
ストレスがいかに危険であっても、現代社会において、そこから逃れることはできません。
私達は、ストレスに対して無力なのでしょうか?いえ、決してそうではありません。
ストレスが蓄積されてキラーストレスにまで至らないよう、様々なストレス対策も研究されているのです。
例えば、コーピングと呼ばれる方法もその一つ。英語の「cope=問題に対処する」に由来し、ストレスを単純に解消するのでもなければ、ストレスを予防するのでもなく、起きたストレスにどう対処するかという手法を多くピックアップして、個々人の状況に合わせ、その都度使い分けていくという方法です。
特にストレス対策という意味で使われる場合には、「ストレスコーピング」と呼ばれることもあります。コーピングにも、専門家によっていくつかの分類がありますが、一般的なものは、以下の2つです。
問題焦点型コーピング
ストレスの原因そのものを除去しようとすることです。例えば、仕事がストレスの原因ならば、そこから一時離れるようなことを意味します。原因を取り除く分、効果は大きいですが、現実の生活を鑑みると、実施が難しいことも多いのが難点です。
情動焦点型コーピング
これは、ストレスの原因に直接働きかけることをせずに、それに対する考え方や気の持ちようを変えることです。問題焦点型とは逆に、客観的状況に働きかけることが無いので実施しやすいものの、根本的な解決にはなりません。
この他にも、認知的再評価型コーピング、社会的支援探索型コーピング、気晴らし型コーピングなどの分類が指摘されていますが、その人のおかれた生活環境やストレスの程度などを考え、様々な手法を組み合わせることが重要だと言えるでしょう。
コーピングの具体的なやり方とは
では、実際のコーピングのイメージを紹介します。
まず、気分転換になるような行動(読書、音楽鑑賞、甘いものを食べる、など、何でもアリです)をできるだけ多くピックアップしてきます。
そして、ストレス状況に陥ったとき、気分転換となる行動を取ってみて、実際にストレスが緩和されたか、自分で確認します。
まだストレスが続くようなら、気分転換を続けたり、別の行動に切り替えたりします。
つまり、ストレスとその緩和を自分でチェックして繰り返し、どの程度のストレスにどのくらいの気分転換が必要か、常に意識できるようにしておくわけです。
この方法は、過酷なストレスに晒される宇宙飛行士のストレス軽減にも使われており、効果を発揮しています。
【ストレス対策2】瞑想が心をいやす!?マインドフルネスとは
また、宗教色を排除した瞑想を中心とする、マインドフルネスという手法も医学的に研究されています。
マインドフルネスとは、正確にはマインドフルネスストレス低減法(MBSR)といって心理学的治療の一つとされており、現代精神医学事典によれば、『1979年にジョン・カバットジンによりマサチューセッツ大学医学部にストレス低減プログラムとして創始された瞑想とヨーガを基本とした治療法』として紹介されています。
マインドフルネスでストレスコントロール
マインドフルネスの考え方について、ジョン・カバットジン自身は、仏教の「禅」の影響を受けたことを明言していますが、その手法自体は、必ずしも特定の宗派に限定されたものではないと考えられています。
具体的には、過去や未来ではなく、現在への集中を促す瞑想により、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの分泌が抑えられたり、ストレスによって縮小するといわれる脳の海馬という部分が増大したりという研究成果もあるようです。
また、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、イチローなど、ビジネスやスポーツにおいて一流の実績を残した人たちも、マインドフルネスを実践したり、その影響を受けたストレスコントロールを実施していたりしたといわれています。
このように、現代人はストレスを余儀なくされていると同時に、それを克服する手段も身につけつつあります。
悲劇を起こすキラーストレスを防ぐため、情報を上手に集めて活用したいですね!
キラーストレス〜死に至る病~まとめ
- 重大な心疾患やがんなど、命に関わる病気を引き起こす可能性のあるストレスのことをキラーストレスといいます。
- キラーストレスは、ストレスの蓄積によって生じます。配偶者の死や過重労働など、ネガティブな要因だけでなく、レクリエーションなど、一見ポジティブな要因もストレスの蓄積につながることがあります。
- ストレスが余儀なくされる現代人の生活ですが、ストレスを克服する様々な手段も研究されています。